車のCAN通信(Controller Area Network)は、自動車内部の電子制御ユニット(ECU)間でデータを高速かつ安定してやり取りするための通信プロトコルです。ボッシュ社によって1980年代に開発され、現在ではほぼ全ての車両に搭載されています。CAN通信は、エンジン制御、ブレーキシステム、快適装備、運転支援システムなど、さまざまな車載システムを統合して機能させるための基盤技術です。
CAN通信の特徴
高速通信
- 最大1 Mbps(メガビット毎秒)の速度でデータを送受信できます。
- 現代の車両では、より高速な「CAN FD」(Flexible Data-rate)が使用され、最大8 Mbpsまで対応可能です。
高信頼性
- データの誤り検出機能が強力で、車両環境のようなノイズの多い環境でも安定して動作します。
効率的な配線
- 各ECUが1本の通信バスに接続されるため、複雑な配線を減らせます。
リアルタイム性
- データの優先順位を設定することで、重要なデータを優先して送信できます。
CAN通信の仕組み
物理構成
- CANバス:2本のツイストペアケーブル(CAN_HとCAN_L)で構成。
- CAN_H(High):高電圧信号。
- CAN_L(Low):低電圧信号。
- 終端抵抗:バスの両端に120Ωの終端抵抗を配置し、信号の反射を防ぎます。
データフレーム
- ID(識別子):送信データの種類や優先順位を示す。
- データフィールド:最大8バイト(CAN FDでは最大64バイト)のデータを送信可能。
- CRC(誤り検出コード):データの信頼性を確保。
データ通信の流れ
- 各ECUは同じバスを共有し、データを「ブロードキャスト」方式で送信。
- 受信側はデータIDを確認し、自分に必要なデータのみを処理。
車両でのCAN通信の用途
- エンジン・トランスミッション制御
- ECU間でエンジン回転数、スロットル開度、ギア位置などをやり取り。
- 安全システム
- ABS(アンチロックブレーキシステム)、ESC(横滑り防止装置)、エアバッグ制御などで使用。
- 快適装備
- エアコン、オーディオシステム、シートポジション制御などでのデータ共有。
- 運転支援システム
- レーダーやカメラの情報を他のシステムと共有し、自動ブレーキや車線維持機能をサポート。
- 診断機能
- OBD-II(オンボード診断)の通信規格としてもCANが使用され、整備士が車両状態を診断する際に活用されます。
CAN通信のメリットと課題
メリット
- 簡略化された配線:多くの部品が同じバスを共有するため、車両全体の配線が軽量化される。
- スケーラブルなシステム:新しいECUを追加する際、バスに接続するだけでシステムを拡張可能。
- 信頼性:冗長性のある設計とエラーチェック機能により、信頼性が高い。
課題
- データ容量の限界:CANの基本プロトコルでは1フレーム最大8バイトと容量が少ないため、現代の複雑な車両では限界がある。
- セキュリティの脆弱性:同じバス上で全データが共有されるため、不正アクセスやハッキングのリスクが存在。
- 診断の難しさ:多くのECUが接続されているため、特定の問題の原因を突き止めるのが難しい場合がある。
CAN通信と他の通信技術の比較
技術主な用途特徴
CANECU間の通信高信頼性・リアルタイム通信が可能
CAN FD高速通信が必要な場合CANの拡張版でデータ容量と速度が向上
LINローカルデバイスの通信低コスト・低速(ウインドウやミラー制御)
FlexRay高速かつ安全性重視の通信自動運転やシャシー制御に使用
Ethernet大容量データ通信カメラやエンターテインメント用
診断とトラブルシューティング
- OBD-IIスキャナーの利用
車両の診断ポート(DLC)に接続してエラーコードを読み取ります。多くの車両ではCAN通信をベースとしています。 - 配線や終端抵抗の確認
バスラインに物理的な断線や終端抵抗の不具合がないか確認します。 - 波形解析
オシロスコープを使用してCAN_HとCAN_Lの波形を確認し、異常を特定します。
まとめ
CAN通信は、現代の車両の中核を支える重要な技術です。ECU間のリアルタイム通信を可能にし、車両全体の制御や診断の効率化を実現しています。一方で、セキュリティや容量の限界といった課題もあり、新しい通信技術との併用が進んでいます。車両の整備やカスタマイズの際には、CAN通信の仕組みと役割を理解することが重要です。